昇進試験~軍曹 其の参

リリルン これは……!

リリルン (くんくんくん)

リリルン あぁ……この、まったりとハナをくすぐる、ふくよかなロータスのカオリ……

リリルン まちがいないですの。これは、これは……オチショーのニオイですのよ!

やったね!

リリルン でも……だれも、いないですの……?

単純にこの花のにおい?

ダシャハン あの……もしかして、リリルンかい?

リリルン ??
ダシャハン ああ、やっぱり!僕だよ。ほら、むかし工房でいっしょに働いてたダシャハンだよ。

おお!
お師匠は見当たらないけど、仲間に会えた!

リリルン まあ、ダシャハンりっぱになって……みちがえたですのよ!
ダシャハン リリルンこそ!活躍のウワサは聞いてるよ。今じゃ、皇宮御用達だそうじゃないか。

リリルン それもこれも、オチショーのおかげさまですの。
ダシャハン だから、今日はお師匠にご報告に来たんだね。

リリルン そうですのよ。つもるハナチもありますし、ひさちぶりに、アタマもナゼナゼされたいですの。
ダシャハン ……?リリルン、お参りにきたんだよね?

リリルン おまい……り?
ダシャハン あれ、ひょっとして…………なにも聞いてないの?

この流れは…。

リリルン ??

ダシャハン ちょうど、2年前になるかな……突然、胸を押さえて倒れられて、そのまま……。

ダシャハン ほら、あのときから心の臓はお悪そうだっただろ?
リリルン ………。

ショックすぎる。

ダシャハン そうか……リリルン、知らなかったんだ……。今は、ここ。お師匠が好きだったロータスの花の下で眠られてるんだよ……。
リリルン ……そ、んな。

ダシャハン 最後の日まで、欠かさず調香をされてたよ。「生涯に出会える匂いは限られておるのだ。時間はいくらあっても足りぬぞ」って。

ダシャハン はは。お師匠らしいだろ?
リリルン ………。

リリルン なんだか、ヒョウチヌケですの。むかちみたいに……あったらまたどなられるとばかりおもってたですの……

リリルン 「なんだ、この、ねぼけたカオリは?おまえのハナはフシアナか」って……。

ダシャハン そ、そんなことないよ。お師匠ったら、リリルンの活躍を、自分のことみたいに喜んでたんだから……。
リリルン ……ホントですの?

ダシャハン ああ、本当だとも。「あの大きな皇宮の中で、あの小さなリリルンが、たった1人でがんばっとるんだ。」「我々も負けてはおれんぞ」って、よく僕たち、発破をかけられてさ。

そういうことは、直接伝えてほしいよね。
なかなか上手くできないものなのかもしれないけどさ。

リリルン ……。
ダシャハン そうだ、お師匠からリリルンに会うことがあったら渡してくれって預かってた物があるんだ。

リリルン ……なんで……すの?

リリルン このカオリは……?

ダシャハン 五福の薫香だよ……。お師匠は完成されたんだ。
リリルン !!

ダシャハン これは、焚いた者に幸福をもたらすという、幻のお香なんです。もちろん、ただの喩えで、それほど素晴らしい香りだ、という意味なのですが……。

私のことも気にかけてくれてた!いい人!!

ダシャハン リリルン、ここで焚いてみなよ。きっと、お師匠が、この香りをいちばん伝えたかったのは愛弟子のおまえだろうから……。
リリルン う、うん……。

島の上じゃなくて、葉っぱの上で焚くんかい!

リリルン オチショーあたくち、ちゃんとリッパに、おチゴトちてますのよ。オチショーみたいなチョーコーシになりたくて……

リリルン だから、あたくち……。