
 これは……!

 (くんくんくん)
 あぁ……この、まったりとハナをくすぐる、ふくよかなロータスのカオリ……

 まちがいないですの。これは、これは……オチショーのニオイですのよ!
やったね!

 でも……だれも、いないですの……?
単純にこの花のにおい?
 あの……もしかして、リリルンかい?

 ??
 ああ、やっぱり!僕だよ。ほら、むかし工房でいっしょに働いてたダシャハンだよ。
おお!
お師匠は見当たらないけど、仲間に会えた!

 まあ、ダシャハンりっぱになって……みちがえたですのよ!
 リリルンこそ!活躍のウワサは聞いてるよ。今じゃ、皇宮御用達だそうじゃないか。

 それもこれも、オチショーのおかげさまですの。
 だから、今日はお師匠にご報告に来たんだね。

 そうですのよ。つもるハナチもありますし、ひさちぶりに、アタマもナゼナゼされたいですの。
 ……?リリルン、お参りにきたんだよね?

 おまい……り?
 あれ、ひょっとして…………なにも聞いてないの?
この流れは…。
 ??

 ちょうど、2年前になるかな……突然、胸を押さえて倒れられて、そのまま……。

 ほら、あのときから心の臓はお悪そうだっただろ?
 ………。
ショックすぎる。

 そうか……リリルン、知らなかったんだ……。今は、ここ。お師匠が好きだったロータスの花の下で眠られてるんだよ……。
 ……そ、んな。

 最後の日まで、欠かさず調香をされてたよ。「生涯に出会える匂いは限られておるのだ。時間はいくらあっても足りぬぞ」って。

 はは。お師匠らしいだろ?
 ………。


 なんだか、ヒョウチヌケですの。むかちみたいに……あったらまたどなられるとばかりおもってたですの……
 「なんだ、この、ねぼけたカオリは?おまえのハナはフシアナか」って……。

 そ、そんなことないよ。お師匠ったら、リリルンの活躍を、自分のことみたいに喜んでたんだから……。
 ……ホントですの?

 ああ、本当だとも。「あの大きな皇宮の中で、あの小さなリリルンが、たった1人でがんばっとるんだ。」「我々も負けてはおれんぞ」って、よく僕たち、発破をかけられてさ。
そういうことは、直接伝えてほしいよね。
なかなか上手くできないものなのかもしれないけどさ。

 ……。
 そうだ、お師匠からリリルンに会うことがあったら渡してくれって預かってた物があるんだ。
 ……なんで……すの?

 このカオリは……?

 五福の薫香だよ……。お師匠は完成されたんだ。
 !!

 これは、焚いた者に幸福をもたらすという、幻のお香なんです。もちろん、ただの喩えで、それほど素晴らしい香りだ、という意味なのですが……。
私のことも気にかけてくれてた!いい人!!

 リリルン、ここで焚いてみなよ。きっと、お師匠が、この香りをいちばん伝えたかったのは愛弟子のおまえだろうから……。
 う、うん……。

島の上じゃなくて、葉っぱの上で焚くんかい!

 オチショーあたくち、ちゃんとリッパに、おチゴトちてますのよ。オチショーみたいなチョーコーシになりたくて……

 だから、あたくち……。
