
……。アトルガン霊銀貨2枚ですね。はい、確かにお預りしました。
それでは、学校案内の方をお連れしますので、少しここで待っててください~。すぐ戻ります~。

お待たせ致しました~。
……おう、待っただか?おら、おめえさ、学校に連れてげてまた頼まれちまっただよ。

ほれ、目隠しだ。おらは運び屋~♪人さ肩のせ、右がら左ぃ~♪ヘイボー……
担がれて運ばれるのもすっかり慣れてしまった。

よーし、ウジ虫どもこれから本日の実習「小隊実戦演習」を……うん?

おお!ウジ虫の勇者がおらぬではないか!
どうしたんだろう。

……い、います!ここにおります!!

……はぁはぁ。
運ばれたんじゃなくて、走ってきた?
そ、その、実習費を会社に持っていくときどこかで落としてしまって……はぁはぁ……。さ、捜したんですけど……
……。

ど、どこにもなくて……

…………。

ず、ずびばぜんでじだっ!!
久しぶりの土下座ー!!

おお、勇者よ!そなたは、よほど走るのが好きとみえる。
え?え?

その根性やよし!今日は好きなだけ本校の周りを走っていいぞ。それが勇者よ、貴様の実習だ!
特別メニュー?

父ちゃん~母ちゃん~ごめんなさい♪

ボ、ボクは走るの専門です♪

このまま死んだら棺桶も♪

車輪をつけて転がして~♪
な、なんだ?
何かの遊び歌的な?

サ~ラヒムッ!
センチネルッ!
サ~ラヒムッ!
センチネルッ!
走り続ける!
走り続ける!
!?

血を吐いても!
泥を喰っても!
走って行った…。
なんなの?
社歌なの!?

よーし、もう一度、気を取り直していくぞ。本日の実習は「小隊実戦演習」である。

実戦演習という名目だが本校の場合、少々厳しい。演習を兼ねた実戦といった方が相応しいだろう。わかるか?つまり、実戦に参加して小隊戦術を学んでいくのだ。

それって単に実際に戦って覚えろってだけじゃ……。
(シ~ッ!だから聞こえるってば……。)

ふん。ウジ虫どもも知恵をつけてきたようだ。いいだろう。ひとつ、素敵なことを教えてやろう。演習相手は蛮族どもだ!やつらが身に着けている装備品をなにかひとつ剥ぎ取ってこい!

……おい、勇者!実習説明を盛り上げるBGMが聞こえんぞ!?

ふぁ…ふぁいいっ!
朝は社長の靴磨き♪夜は社長の武器磨く♪
えーっ!?
外からこの中に聞こえるくらいの大声で歌いながら走らないといけないの!?
きついが過ぎる!!

フッ、哀れだな……。

ファルズンさん……。ねえ、りぃ。なんとかしてあげられないかな?
うーん。
遅刻の罰は走ったから受けてるとして、授業料払ってないんだろうからそれを建て替えるとか…?
説得なんかきかないだろうし。

おい、ウジ虫ども。同情している場合ではないぞ!あの勇者だけが命拾いしたかもしれんのだ。

本題に戻る!蛮族から奪取した装備品はサラヒム社の人事担当が確認する。戦利品を直接手渡せ!確認を受けたら、再びここに集合するのだ。

ただし、急げよ!全員が終えるまでヤツは走り続けねばならん。勇者を生かすも殺すも、貴様ら次第だ。
えーーーーっ!?

以上!ウジ虫ども、解散。さっさと蛮族の拠点へ走れ!
早くしないとファルズンが死んでしまう!!

どりゃー!
今となっては楽勝よ!
トロールの肩甲を手にいれた!

目標の戦利品ですね。お見事です!さあ、後は急いで学校へ行かねば、ファルズンさんが!
はやくはやく。
す、すぐ案内を呼んできます。

……おう、急ぐんだって?んだば、ほれ、目隠しして。おら、超特急で出発するだ。
はやくはやく。
……アブさん急行料金は別払いだど。

ほほう、マムージャの冑を持ってきた、と書いてあるぞ。人事担当のサインも……あるな。
いえ~、それほどでも!
よし、合格だ。さすが、ネズミ。物を拾うのは得意だな。
な、ななな……
いつもいらないひと言があるよねぇ。

…………。

……はい、教官どの!

よーし、これで全員……いや、ヤスミールがまだだな。さすがに島国育ちに大陸は広かったか? ハハハ。
そんなことはなさそうだけど…どうしたんだろう。

あ、来た!

……教官どの、遅くなりました!こちらが教頭の証明書です。
ふん、いったいどこまで行ってきたんだ?見せてみろ!

…………。何故、証明書が2枚ある?

……まさかあの勇者の分か?
……はい。
本当にまだ走ってる!!
体力オバケすぎないですか!?
ふん!勝手な真似を……

だが、だ。本実習の隠された真意は貴様らの信頼関係を問うことにあった。戦場で負傷した戦友を見捨てるようなヤツはウジ虫も喰わんクソだからな。

勇者も合格とする!
おおー!!

おい、勇者!戦友のお陰で命拾いしたな。走り止めっ!こっちへ来い!
どうぢゃんがあぢゃん……!?ばぁ、ばぁい……!

(うわ、かっこわる~あいつ、どうやって傭兵になったんだろ?)
いやぁ、でもきっと、ちゃんと最後まで走り続けたから合格になったんだよね。

(でもさ今まで走ってたんだよ?けっこう、体力あるんじゃない?どんくさいことは確かだけどねぇ。)
錬金術できるし、体力オバケ。
気が弱くて実力発揮できてないけど、実はすごい才能の持ち主なのでは!?

(ねえファルズンさんって傭兵だったの?)
(そうよ。アタシやこのコ、りぃと同じ。現役バリバリのね。)

…………。
なんで傭兵やってるのか不思議だよねぇ。

ゼヒ~、ゼヒ~

おい、勇者。貴様は、皆の協力で本実習を合格となった。
ぼ、ぼえ?や、やっだ~!!ゴホッ、ゴホッ……

だが!あとで教官裁量で個人的に戦闘実習の補習を行う。
びえぇぇっ!ぞ、ぞれっで……個人レッズンっでごどでずが……?

個人レッスンだあ?そんな甘っちょろいもんなわけあるか!貴様の生死に関わる補習だ。生死に!ありがたく思え!
ひぇ。
は、はいっ……

声が小さいっ!
はいいぃっ!!

よーし。本日の「小隊実戦演習」はこれで全員修了とする!
次回実習は前期最大の山場となるだろう。ケツを洗って待っていろ。私も竹刀を磨いておく。以上、解散!