漆黒の柩 其の壱

ナジャ・サラヒム ヘェー!さっそく、幽霊船の情報を得たって♪しかも、アフマウさまじゃなく、いの一番にあたいに報告に来るなんて、あんたも傭兵にとって必要なことがわかってきたようだネェ。

阿修羅に逆らうと怖いですからね…。

ナジャ・サラヒム よくやったっ!

褒められた!

ナジャ・サラヒム で、どういった情報を得られたんだい?事細かにあたいに話してごらん。ただちにそれを、アフマウさまたちにお伝えして、「さすがはサラヒム・センチネル社!」な~んてお褒めの言葉をいただかないとだネェ♪

りぃ かくかくしかじか。
ナジャ・サラヒム ……なんだって?アズーフ島で海洋騎士の亡霊に面会し……

ナジャ・サラヒム 幽霊船の正体は、噂どおり、亡国イフラマドの「ブラックコフィン号」らしいことがわかったって?
りぃ うん。

ナジャ・サラヒム おぉ、やだやだ!幽霊船の正体を暴けって言われたときはあんまし考えないようにしてたけど……幽霊船に幽霊はつきもの……。

ナジャ・サラヒム おお、やだやだやだやだ!アシュタリフ号にオバケが集まって、皇国に復讐を企ててるだなんて想像したくもないネェ!

ナジャ社長、おばけ苦手だものね。

ダンッ!

ナジャ・サラヒム ……って、りぃ!ふざけるのもいい加減におしっ!!そんなタワゴト、どこの誰サマが信じてくれるっていうんだい!?
りぃ えーっ!?

ナジャ社長、結構ノリツッコミするよね!?

ダンッ!

ナジャ・サラヒム 論拠のない亡霊の妄言を報告するために、のこのこ皇宮に出向くだなんて、あたいは死んでもご免だよっ!

りぃ これ拾ったんだよ。
ナジャ・サラヒム おや?なんだい、それは?

ナジャ・サラヒム 騎士の亡霊が現れたお墓で拾った金貨……。ふーん……かなり純度の高い金を使ってる贅沢な貨幣だネェ。今時分、こんなの使ってる国なんて聞いたことも……

ナジャ・サラヒム !!!!!

りぃ どうしたの!?

とげとげを落とすほど驚くなんて!

ナジャ・サラヒム この王冠をかぶったイルカの紋章は……。

ナジャ・サラヒム 「イフラマド王国」のものじゃないか……。

ナジャ・サラヒム 200年近くも昔に滅ぼされた王国の、しかも、ご禁制になっている貨幣が、こんなに綺麗なまま見つかるなんて……。

あそこで野ざらしになってたわけじゃないってことね。

ナジャ・サラヒム ん?そーいえば、あんたは、この辺りの歴史に疎くても仕方ないんだったネェ?
りぃ うん。まだ全然。

ナジャ・サラヒム あたいだってそうだったんだ。そんなことは、自分で調べてなんとかしなっ!って言ってやりたいとこだけど……とびきりの仕事に関わることだから特別に、あたいが教えてあげよう。

ん?
ナジャ社長もアトルガン出身ではないの?

ナジャ・サラヒム むかしむかし……、そう、200年は経つってくらい大昔の話さ。このエラジア大陸には、交易で得た莫大な富と、精強な海軍をもった小さな海運国家があったんだよ。

ナジャ・サラヒム 王国の名はイフラマド。その頃、すでに大国だった隣国のアトルガンと対等に渡りあえるほど、意気盛んな小国だったらしい。

へぇ。すごい。

ナジャ・サラヒム だけど今……イフラマド王国は影もかたちもないだろう?
りぃ うん。

ナジャ・サラヒム 皇国に滅ぼされたんだよ。
りぃ えっ…。

だから海洋騎士ジャザラートはあんなに恨んでたのね。

ナジャ・サラヒム このアルザビって街はネェ、元々はアトルガン皇国の都じゃない。……おわかりかい?

まさか、イフラマド王国の首都だった…。

ナジャ・サラヒム 大国は小国を滅ぼしのみこんで、国を広げてくのさ。

ナジャ・サラヒム さっ、社長直々のありがたい歴史講座はここまでだよ。
りぃ ありがと。

ナジャ・サラヒム いいかい?りぃ。我が社の傭兵は皇国のために働くことが第一の条件!敗戦国の貨幣なんて見せびらかしてたら、不滅隊の方々にしょっぴかれても弁解のしようがない……。

そうなのかな。

ナジャ・サラヒム それに、イフラマド由来の品を引き取ってくれる店もないだろうし、溶かしてるところを見つかってもやっかいだ……。

確かに。
面倒なもの貰っちゃったのね。

ナジャ・サラヒム こんな物騒なもんは、とっとと暗碧海にでも捨ててきなっ!!

ナジャ・サラヒムはイフラマド金貨を投げつけた!

えーっ。
でも王子に渡してって頼まれちゃったんだよねぇ。

ダンッ!

ナジャ・サラヒム ……そもそも、あたいは幽霊船について調べろって言ったハズだけど……。

ダンッ!

ナジャ・サラヒム あんた、いったいどこを捜し回ってるんだい?まさかネェ?船がどういう乗り物か、わからないなんてのたまったりしないだろうネェ?

ナジャ・サラヒム ほら、船は、どこを走る乗り物なのか、試しに言ってごらん?

違う事言ったらまた怒られそうだから素直に答えておこう…。

りぃ 海。

ナジャ・サラヒム ……フーン。そうかい。ちゃんと知ってるのに、陸を調べてたなんてずいぶんとトンマなお話だネェ。

幽霊船じゃなくていつのまにか幽霊捜しになってたわ。

ダンッ!

ナジャ・サラヒム 仕事をなめてんじゃないよっ!

ナジャ・サラヒム ウゥ……あんたと話してたら頭痛がしてきたよ……。これだから冒険者上がりの傭兵は……

確かに最初から傭兵の人に比べてちょっと自由なのかもしれない?

ナジャ・サラヒム あぁ、そういえば……あんたの他にも、幽霊船を捜しに行かせた傭兵がいるんだったよ。そいつは「『ドゥブッカ島の西』の方から禍々しき妖気を感じるから、そっちを重点的に調べる」とかなんとか言ってたっけ……。

ゲッショーかしら。

ナジャ・サラヒム その物騒なもんを捨てに行くついでに、足を伸ばして、あいつに協力するのも手かもしれないネェ。

ナジャ・サラヒム さぁ、思い立ったが吉日だよ。さっさと出発!とっとと仕事!ってね。
りぃ はぁい。

ナジャ・サラヒム 今度、半端なもん掴まされてきたら、この「モーニングスター」であたいが朝までたっぷり可愛がってやるよっ!