茶屋の厄難 其の壱

Travialceトラビアルス ……先刻、ウィンダスの特命全権大使がアルザビ港に到着しました。
ゲッショー なんと?ういんだすの……相違ござらぬか……?

あっ、やっぱりトラビアルスだった。

トラビアルス はい。この目で確かに。

ゲッショー されど……らいふある殿の文には、中の諸国は、しばし静観するとしたためてござったが……。よもや、ういんだすが抜け駆けして、あとるがんと同盟を結ぶという事態が起こり得るでござろうか?

ウィンダスの独断で来たのか。

トラビアルス ゲッショー様。それは杞憂でございましょう。我らアルタナの四国は決して友好的とは申せませぬが、あの苦しき大戦を共に戦った絆がございます。
ゲッショー とらびあるす殿……人の心は移ろい易きものにて候。まして、国益を競う国同士なればなおのこと。

ゲッショー 二十年とは、そうした歳月でござる。

20年か…。そうだね…。

トラビアルス 恐れながら、これは私見でございますが……。ウィンダスは、大海で隔てられてこそいるものの四国の内でアトルガンにもっとも近く……かねてよりその動向を警戒していたようです。

トラビアルス 傭兵船の寄航を認可したのも、信頼できる冒険者を利用して謎多きアトルガンに少しでも光を当てんがためかと。……そう考えれば、この度の大使派遣も自ずとその理由が想像できはしないでしょうか?
ゲッショー ほう。然様であれば拙者にも合点が行き申す。

傭兵船の寄航はマウラのことだね。

ゲッショー さすがは、金色のらいふある殿の懐刀よ。
トラビアルス ゲッショー様、それは……。

ゲッショー あいや、これは失敬つかまつった。あくまで貴殿の私見として胸に止めおき申す。

トラビアルス いずれにせよこの件については、またライファル様より文がまいりましょう。
ゲッショー 其はうれしや。拙者らいふある殿の文を、心待ちにしてござれば。

ゲッショー、トリオンの文字読めるの…?
代筆してんのかな。

トラビアルス 我が主もご同様と伺っております。

トラビアルス 最近などゲッショー様の流麗な東方文字に負けじと、自ら考案された文字を普及させようと腐心されておられるとか。

えええ!?
ミミズのダンスのような文字を…?
そんな無茶な!!

ゲッショー 其は重畳。
トラビアルス それゆえ、したためられる公文書がますます判読困難に……と、宰相様は嘆いておられました。

ひぇ…。

ゲッショー いや、さすがはらいふある殿。中の国随一の武で鳴るさんどりあを、しょって立たれる御方でござるな。

しっかりバレとるやんけ。

トラビアルス
ゲッショー 敵を欺かんと欲すればまず味方より、と申す。これで本丸の防諜対策も完璧という訳でござろう?

トラビアルス い、いえ……そのようなことでは……。

りぃ 単純に字がド下手なだけなのよ…。

ゲッショー ……おお、これは御同僚のりぃ殿ではござらぬか。よきところへ参られた。

ゲッショー 今、とらびあるす殿と茶の湯を楽しみながら、天下の動静について語らっていたところにござる。御主も、一服されてはいかがか?
りぃ うん。

ゲッショー ……で、いかがでござる?最近、仕事の方は?拙者、別件にて忙殺されしばらく社に顔を出しておらぬのでござる……。

ゲッショー なんぞ近況を聞かせてはもらえまいか?その、社長殿のことなど……。

怒ってないか気になってるのね…。

3つ選択肢があるなぁ。
一番気になるのは一緒に行けなかった聖皇様謁見の顛末だろうからこれを話そう。

最後に聖皇から貰った冠盗まれたアレね。

ゲッショー ……其は、なんと申したらよいのか。言葉のかけようもござらぬ。

ゲッショー 実は拙者、我ら社員の給金から最近天引きされるようになった例の保険掛金……あれは、社長の着道楽に使い込まれておるのではないかと内心勘ぐっており申した。

社長おしゃれさんだなぁ。って思ったのに、資金源はそれだったの!?

ゲッショー まこと、己の不明を恥じ入るばかりでござる。

ゲッショー ……しかし、あの積立。我ら社員の老後のためという触れ込みなれど、かような傭兵稼業で果たして受け取れるものでござろうか……?

確かに…。

ん?私も知らないうちに引かれてたのか!?

あ、全部言うのね。

文化財調査事業団との一件。
オートマトン工房のガッサドからの依頼で、最後に報酬アトルガン黄金貨255枚を社長に取られたやつね。

ゲッショー なんと、いたわしいことでござろう……。

ゲッショー 社の金庫から溢れてしまい白金塊百個に換えたと、もっぱら噂の大量の金貨。それが、よもや御主の報酬を横取りしたものでござったとは……。

くっ…。

ゲッショー 拙者、その話を聞きしとき恥ずかしながら、さらひん・せんちねる社員の「ぼうなす」の準備かと密かに期待し申した。

傭兵契約の真実。

これは、騙されて名前書かされるやつね。

ゲッショー これはしたり!

ゲッショー 社長殿が、拙者に御成約見本として示したあの契約書。やはり、あの署名は御主の筆跡ではござらんかったか……。

私のが見本になってるの!?
しかも偽物が?

ゲッショー 口惜しいでござる。御主同様、拙者も見事社長殿の策にはめられておったとは……。御忠告いただいたらいふある殿に合わせる顔がござらぬ。
トラビアルス ゲッショー様、面をお上げください。我が主とて同様に入社させられた身。境遇は同じでございますから……。

同じ手口だったねぇ。

ゲッショー おお、然様でござった。

ゲッショー のう、りぃ殿。御主と拙者、そしてらいふある殿は同期の桜ぞ。これからも、じっこんに御頼み申す。
りぃ うん。よろしくね。

りぃ まだまだあるよ。
ゲッショー あいや、またれよ!恐ろしい話はもうたくさん。

ゲッショー 御主に比ぶれば拙者が、社長殿より与えられた試練などものの数には入らぬでござれば。

ゲッショー 拙者、りぃ殿に、真の忍耐とはなにか教えられ申した。
トラビアルス 私もです。立ちどまって己の境遇を嘆くよりも立ちあがって己の使命を遂げよ、と。

やっぱり私かなり酷い目にあってるんだ…。

トラビアルス ゲッショー様、りぃ様。私は、これにて失敬します。
ゲッショー うむ。とらびあるす殿。生きておらば、また会おう。