砂上の楼閣 其の弐

ダンッ!
  
ナジャ・サラヒム ったく、バカもやすみやすみ言っとくれっ!

ダンッ!

ナジャ・サラヒム ほんっとに!!

ダンッ!

ナジャ・サラヒム 大御言まで、賜っておきながら!!!

ダンッ!

ナジャ・サラヒム 聖皇さまがっ!

ナジャ・サラヒム ……ハァハァ、ゼィ、ハァ。

ダンッ!

ナジャ・サラヒム 家出しただなんて、ご無礼なホラ話っ!!

ナジャ・サラヒム いったい、なに考えてるんだいっ!

本当なのに~!

ナジャ・サラヒム ハァ~。

ナジャ・サラヒム あんたのくだらない妄想よりあたいの方がずうぅぅぅ……っとおもしろい話を知ってるよ。

えっ、なんだろう。

ナジャ・サラヒム 耳かしなっ。あんたが帰ってくるちょいと前のことさ。1通の封書が早便で我が社に届けられたんだよ。

ナジャ・サラヒム 宰相さまの王虎の紋章が押された封蝋付きでね!

聖皇の紋章は蛇だけど、宰相は虎なんだ?

ナジャ・サラヒム ふふん、驚いたかい?

ナジャ・サラヒム で、開封すると中には長い黒髪の男の似顔絵がついた緊急手配書が入ってたのさ……。

ルザフか。

ナジャ・サラヒム 手配書によれば、そいつの名は「腹黒のドゥザフ」。コルセア頭目の1人らしい。
りぃ 腹黒ドゥザフ???

ナジャ・サラヒム ……罪状は、皇国民殺害、船舶強奪、輝金密輸、通貨偽造、結婚詐欺、狩場独占……ずいぶんと派手な御経歴のオンパレードさ。

ルザフ、結婚詐欺狩場独占までしてたの?????

ナジャ・サラヒム けど、あたいには気になることがあってネェ。ケチな海賊1人の賞金額にしたら、ちょいとお値段が高すぎるのさ。

さすがそこらへんは見逃さないのね。

ナジャ・サラヒム その額、なんとアトルガン黄金貨、2000枚っ!
りぃ おお…。

ナジャ・サラヒム 最近、この街を騒がしてる海猫党の首領、クルタダより50倍お高いときたもんだ!
りぃ おおお。

ナジャ・サラヒム ふふん……あんたは、なんでだと思う?

それはもう、なんてったってオーディン憑きですからねぇ。

ナジャ・サラヒム ……仕方ない。教えてやろうかネェ?

ナジャ・サラヒム この、腹黒のドゥザフが聖皇さまの御命を狙ったと巷で噂の犯人だからさ!
アブクーバ (あああ……なんて、なんて、お見事な推理……。ほれぼれしますー。)

ナジャ社長の読み間違いじゃなくて、手配書に腹黒のドゥザフって書いてるのかな。
あー、そっか。ルザフって書いたらルザフがいるって認めることになって、イフラマド王国の末裔の人たちが大騒ぎになって下手すれば内乱に発展しかねない…か。

ナジャ・サラヒム いいかい?りぃ!!こいつは一攫千金、金蛇勲章ものの、またとないチャンス!

ナジャ・サラヒム どんな汚い手を使おうと……いかなる犠牲を払おうと……皇宮御用達企業の名にかけて、こいつはウチがぱくるよっ!
りぃ えええ。

ナジャ・サラヒム ……いや、ここに生死を問わずって書いてあるし、いっそのこと殺っちまったほうが手っ取り早いかもしれないネェ。
アブクーバ (ひ、ひどいです……。)

ナジャ・サラヒム ちょいと殺すには惜しい色男のようだけど……。
アブクーバ そ、そんなっ!

ナジャ社長の好みはルザフタイプなのか。
アブクーバ、イキロ。

ナジャ・サラヒム なんだい!?アブクーバッ!!
アブクーバ はっ、はいぃぃ!

ナジャ・サラヒム さっきから後ろで何をチョロチョロしてるんだいっ!
アブクーバ すっ、すみません!先ほど皇宮から伝令の方が来られて、報酬……それも大金を置いてゆかれましたッ!

ナジャ・サラヒム なんだって!?大金!!!!!

ナジャ・サラヒム って、ウチはまだドゥザフを捕まえちゃいないよ?
アブクーバ やだなぁ、もう。違いますよ~。

アブクーバ はい、りぃさん。丁度いてくれてよかったです。アトルガン黄金貨が、全部で10枚ですー。
りぃ 10枚!!やったー!

ラウバーン太っ腹~!

アブクーバ あとで、確認しておいてください。
りぃ うん。ありが…

ナジャ・サラヒム ……お待ち。アブクーバ。
アブクーバ はい?

ナジャ・サラヒム ……マージンや諸経費は、きっちりさっぴいてあるんだろうネェ?
アブクーバ !!!ぅあ、いいえ……まだでした。

アブクーバ え~と、公務仲介料……傭兵保険料……傭兵年金……モグ社宅管理費……傭兵所得税……現金一時保管料に……社長薫陶費……っと。

アブクーバ す、すみません……りぃさん……アトルガン黄金貨、9枚、天引きとさせていただきます。
りぃ や、やだ!!!

アブクーバ そんなあ!じゃあ、僕と死んでくださいー。それが嫌ならお願いしますー。

アブクーバ マージンと諸経費……アトルガン黄金貨、9枚、天引きさせていただきますからッ!!!

あーっ!逃げたー!!!

ナジャ・サラヒム ……ん?何かご不満でも?あんた、傭兵の癖に細かいことほざいてんじゃないよっ!
りぃ 細かくないやい。

ナジャ・サラヒム アブクーバッ!!!りぃ中尉!!!
アブクーバ はっ、はいぃぃ!

ナジャ・サラヒム 社歌、「山猫傭兵隊歌、第壱番」斉唱!愛社精神を骨の髄まで叩きこみなっ!
アブクーバ はっ、はいぃぃ!さぁ、りぃさんも御一緒に!

えっ、分かんない!!

トゲトゲで指揮取ってるぅ。

アブクーバ 傭兵は、行く~、いくさ場へ~♪

てっ、適当に合わせるしかないッ。

アブクーバ 敵は~、邪悪な~、蛮兵ぞ~♪

アブクーバ 社章の山猫~、胸につけ~♪

アブクーバ 社長の言葉~、胸に抱く~♪

アブクーバ 我らは~、無敵の~、傭兵隊~♪

ナジャ・サラヒム はいっ、「第弐番」斉唱!

アブクーバ ふっ、ふひー!
りぃ ふひぃ!

アブクーバ 傭兵は、散る~、いくさ場で~♪

アトルガン黄金貨を手にいれた!