
……。アトルガン霊銀貨2枚ですね。はい、確かにお預りしました。それでは、学校案内の方をお連れしますので、少しここで待っててください~。すぐ戻ります~。

お待たせ致しました~。
……おう、待っただか?おら、おめえさ、学校に連れてげてまた頼まれちまっただよ。ほれ、目隠しだ。

おらは運び屋~♪人さ肩のせ、右がら左ぃ~♪ヘイボー……

……最悪な状況だ。敵地で本隊とはぐれてしまった。地図も磁石も落としたようだ。

周囲を見渡しても似たような木々が生い茂るばかり。自分の隊の位置など皆目わからない。おまけに率いているのは、ケツの青い新兵ばかり。リンクパールは沈黙したまま……。
ん?
もう授業が始まってるのね。

そんなとき貴様らならどうする?勇者中隊長、答えろ!
ボ、ボクですか!?

質問に質問で返すな!質問をしていいのは私だけだ!
スミマセンっ……あの……その、大声で助けを呼びます……。
それは死では。

かあぁぁぁぁっっ!!

ひいぃぃぃぃっっ!!

敵地の真っ只中で貴様は叫び、自分の隊の位置をむざむざ敵に知らせてしまったのだ!マムージャ兵に囲まれた貴様らは、はらわたを掻き出され皮を剥かれ、手足をもぎ取られ……

マムージャの家族の食卓をにぎわせたのだった!

ひぇぇっ!!
蛮族って人間食べるの!?
……と、こうなる前になんとかせねばならぬ。

委員長!この絶望的な局面で貴様ならどうする?
あだ名が委員長!
妙に納得。

まず、部下を安心させ周囲の「状況」を冷静に確認。そして、記憶を頼りに……もと来た道を引き返ししかる後に、可能ならば本隊を追跡。合流を果たします。

そのとおり!「記憶」なのだよ。特殊な遭難状況においては己の「記憶」が最大の切り札となる!
方向音痴にはつらい。
というわけで、今回の実習『サバイバル訓練』においても「記憶」の向上に重点を置いたプログラムを組んでみた。

私がこれからウジ虫どもに「過去」に関する質問をぶつける。貴様らは己が記憶を武器とし私に戦いを挑んでこい!
ふむふむ。
甘く見るなよ!記憶の切れ味など貴様らが思っているより曖昧なものだ!

よし、まずはいつものように貴様からだ!りぃ!
はぁい。

めっちゃ応援してくれてる!

問題は全部で8問だ。全力で反撃してこいっ!

第1問!サラヒム・センチネルに数多く存在する傭兵勤務評価基準!第二条はなんだっ!?
二条?どれだったっけ…。
うーん、流れを考えるとこれかな。
社長の頼みに親切対応。

次々いくぞ!第2問!「冥路の騎士」を知っているな?忘れたとは言わせん。そいつが乗っていた獣の噂をナジャ社長はなんと言っていた!?
マーリドよりも大きい。
象と比較してたよね。
イベントシーンでも出てきてた。

くたばるのはまだ早い!第3問!「水晶指向儀」の製造に関する知識からだ。即答しろ!!「霊晶水」が溜まっている場所をなんと呼ぶ!?
霊晶泉。

まだまだ、終わらんぞ!!第4問!以前、サラヒム社を訪れた調香師のキキルンを思い出せ!そいつはセンチネルをある会社と勘違いした!答えろ!!その会社とはなんだ!?
蛇の目探偵社。
私の使命は役立たずのウジ虫をこの学校からつまみ出すことだ。

第5問!先程の問題の続きだ。声を張り上げて答えろ!その調香師の師匠が完成させたのは、なんというお香だ!?
五福の薫香。
ウジ虫の脳にはウジ虫が入っているのかな?

第6問!貴様が調練を担当した後輩3人組を覚えているな?そのうち、いつも真ん中に立っていたヤツはなんて名だ!?
ええ?
問題簡単だな。と思ってたけど、これは…。
真ん中にいたのは金髪の短髪の人よね。
茶髪の人がカリムルってのは覚えてる。ひとりだけ4文字だなって思ってたのよね。
うーん、どっちだっけ…。
ワルジャル?
この問題で、しくじったらしょせん、貴様はウジ虫だ。

第7問!最近の事件に関する問題だ。答えられねば、死体になってもしらんぞ?人事担当の失態が原因でナジャ社長のトゲトゲに異変が起こった。おい、そのアクシデントとはなんだった!?
黒錆が浮いた。
これができなきゃ貴様は明日から雑務曹長だ!!

第8問!では、聞こう。そもそも、何故、人事担当はそのアクシデントに気がついたか?
転び方!?
えーっと、よろけた時に確か左足が浮いてたから…
軸足に左足をひっかけ転んだから。
「少尉」に昇格した!
えっ、本当?合ってたのかな。
用語辞典で確認してみよう。
…
全問正解してたー!
でもこれ、アサルトのクエスト続けてやってたから覚えてたけど、時間が空いてたらほとんど忘れてそう。

……ほうおつむだけは特務なウジ虫なんだな。いいだろう、戻れ!
いぇーい!

次っ!勇者、貴様だ!!
は、はいっ教官どの!
勇者よ何故、一度で返事できん?覚悟が足りんから、そうなるのだ。

前回の実習で受講費を前払いせぬまま、参加させてやったのはなんのためだ!?
は、はいっ教官どの!ボクを立派な士官にするためです。
違う!使い走りの士官にするためだ。
はいっ教官どの!
そうなの!?

ふん……だが士官学校の位置を自力で突き止めた探査能力だけは、ほめてやろう。
ありがとうございますっ教官どのっ!
いや、コロセウムってバレバレでしょう!?

補習のとき鉄拳でその記憶は封印してやったがな。
ありがとうございますっ教官どのっ!
ええ…。
ってかファルズン、返事が適当だなっ。
緊張が限界なのかしら。

ねぇりぃ。あのファルズンさん、あなたと同じサラヒム社の傭兵ですって?
辞めてないみたいだから、そうだよね。
うん。
やっぱりそうなんだ……。

……ねぇ、2人でファルズンさんを応援しましょう。彼、ちょっと気が弱いだけなのよ。そこさえ克服すれば、きっと……
うん。

やっぱり、ボクはエースなんかじゃないですよね……?
エースかどうかは分からないけれど。
自分を信じるんよ!
そうよ。きっと、道は開けるわ。がんばってください、ファルズンさん!

!!りぃさん!ヤスミールさん!

(あんたは、我が社のエースなんだよ。)

えっ、社長……?
??
これは、ファルズンの心に響いた声?
ボ……ボクは……

おお、いつまでお待ちすればよろしいのでしょうか?パシリ勇者どの!
……。

ぐ……ぐっ……ぐっ、ぐっ、ぐっ!!
ぐっ?

軍曹!!

!!
!?

も、もうパシリだなんて、い、い、言わせないぞっ!!

ほう……たいした度胸だな、勇者。
ボクは勇者じゃない……

ボクはっ……けれど、ボクはっ!

エースなんだぁぁぁっ!!

おおおおお!
いいぞファルズン!

ブッ……ブハハハハハハハハッ!貴様新兵器で私を殺す気か?おもしろい、その挑戦受けてたとう!
喜んでる!

この実習を貴様の天王山としてやる。失敗すれば、放校処分だ。無論「退学料」が払えぬ貴様は、サラヒム傭兵食堂で10年間の強制皿洗いをすることになる。
期間が長い!!!

貴様にその覚悟はあるのか!?
も……もちろんだっ!!

ファルズンさん……だいじょうぶかしら。
フッ、人は持って生まれた能力を超えることはできない。それが女神の与えた宿命だからだ……。

そんなことやってみなけりゃわからないじゃない!あなたも応援するのよ、御曹司!!
御曹司呼びww
くっ……平和な島国育ちの貴様になにがわかる?
平和…?
小国で、自警軍があったり、暗殺部隊があったりだから平和って感じでもなさそうだけどなぁ。

そんなほにゃららやっちゃいな、ファルズン!
(……そうよ。……なんかに負けちゃダメよ……。)
鬼とか呼びたいの隠してるww

ハァ……ハァ……なかなかやるな、勇者よ。

だが、しょせん貴様はここまでだ。次の質問で、貴様は確実に退学するっ!
全問正解中なのか!?

いや、もう退学しているのだっ!

フゥ……フゥ……さっさと出せよ、鬼教官……ボクはエースなんだ!どんな問いにだって答えてみせるさ。
お、おおおおお!
かっこいいぞファルズン!
貴様ぁぁぁぁぁっ!

第8問!以前、貴様はナジャ社長にある錬金術師の手伝いを頼まれた。

わかったぞ……「霊晶水」だ……

フハハハハハッ!かかったな。勇者、敗れたり!そんな愚問を私が発するとでも思ったか?そのとき貴様は「だいじなもの」をある人物からもらったはずだ。そいつはなんだ!?

だ、だいじなもの……?
私が汲んできたあの霊晶水じゃないの?
そうだ。これに、答えられぬようでは貴様に人の上に立つ資格はない!

(……だいじなもの。)

(あの時、ボクは「霊晶水」の水汲みを頼まれて……。)

どうした?もう時間がないぞ。50~……49~……48~……。

(そうだ……水を汲むためのフラスコをもらったんだ。)

(……いや、よく思い出せ。あれは借りただけだ……実際にもらってなんかいない。それに別にそんな答えなんかじゃ……。)
37~……36~……35~……。

(……そうだ、知識だ!錬金術に関する知識だ!ボクは「霊晶水」の濃度に関する知識を……あうう、違う、違う……。)
29~……28~……27~……。

(報酬?……それだ。ボクは手伝いの報酬を……まさか、そんなわけない。)
16~……15~……14~……。

(だって、だってあれはりぃさんに手伝って貰って……。)


ん?
8~……7~……6~……。
3~……2~……1~!

時間だ、パシリ勇者!やはり、パシリはパシリだ。約束どおり、貴様は退……!?

友情……

ボクはりぃさんから友情をもらったんだ!!
!!
あのとき、りぃさんが手伝ってくれなければボクはとうの昔に首になっていたんだ!

それに今だって……りぃさんたちの応援がなかったら、ボクは……ボクは……。

……だからボク退学します。
えっ!?

ファルズン!

そんな友情に応えられず解答できなかったボクには、教官の言うようにここにいる資格はありませんから……。

……勇者よ、見事だ。
!?

その友情貴様の胸に深く刻まれているのならばこれ以上、貴様に聞くことはなにもない……。
教官……。

ボ、ボク、ひょっ、ひょっとして……。
ひとつ、言っておく。今後、2度と私を軍曹と呼び捨てにするな!後期では、即刻、退学処分とする!
や……

やった!!りぃさん、ボク、やり……まし……
がんばっ……!?

キャァァァッ!ファルズンッ!!
ああー!!
ぶっ倒れたあああああ!!!


よ~し、ウジ虫ども。これで前期の実習は終わりだ。この後、校長により修了式が行われる。

やったわ!
わたしたち合格したのね!
浮かれるな、ネズミども!生皮をひんむいて敷物にするぞ!!
ひぇ…。

わかったら総員、この場に直立不動で待機!!

は、は、はいっ~教官どのっ!
あっ、生き返った!

あ、あれ……ボクどうしていたんだろう……。

ファルズン!よかった。気がついたのね!
き、教官は?

……そっかボクはダメだったのか……。
そんなことないよ。けっこう、カッコよかったわ。わたし、少し見なおしちゃった。
え?ボクどうかしたんです?
なに言ってるのよ。あの豹変ぶり……クスッ、都市伝説ものよ。
もしかして記憶が飛んでるの!?
あのスーパーファルズンは夢と消えた…?

あ~あ~あるざびあるいたあいうえお。たでえま、伝声管テスドぢゅう……
あめんぼあかいなあいうえお のアトルガンバージョン!?
先生がた~準備さ、終わっただ。
ご苦労。

え~、それではこれよりサラヒム傭兵士官学校第4期生の前期課程修了式を開式いたします。
4期生だったんだ。

士官候補生の諸君まずは前期課程の修了、おめでとう!
みなさんおめでとうございます~!

た・だ・し!後期の課程も控えております。気を抜きすぎないよう、注意するように。
後期か…。
もっと大変なのかな。
それでは次に呼ばれる者は前へ出なさい。教頭!

はい!……ネオザリヤ!

……ヤスミール!

……えと……りぃ!
以上、3名はロンジェルツ軍曹よりとても大切なお話があるそうです。
なんだろう。

ウジ虫ども。一度しか言わん。よく聞け!貴様ら3名は今回の実習において仕官の素質が高いと判断された。
マジですか!
したがって貴様らには「特別実習」を受けてもらう。
マジですか…。

つまりだ。これから貴様らには、実際に「少尉」として最前線へ赴き、経験を積んでもらうつもりだ。
あっ、なるほど。
だが、勘違いするなよ。これは正式な昇進ではない。公務をたゆまず遂行するための、いわば仮免許だ。そのことを胆に命じておけ。

無論、貴様らが少尉にあるまじき失態を演じた場合は……私の一存で階級は剥奪。即刻、本校も退学処分とさせてもらう。
ひぇ。
「サバイバル訓練」の問題を思い出してみろ!私の目はどこにでも光っているのだ。
そういえばどうしてあんな詳細に知ってたんだ。
もしかして階級章にGPSだけじゃなくて、記録装置も付いてる!?

それから今回、呼ばれなかったウジ虫!

日々の鍛錬を怠るな!血反吐、吐くまで復習しろ!飯は1日3食しっかり喰え!
ご飯大事!
ファルズン!

ひぇっっ!……は、はいっ!
貴様は特にだ!

……以上。
ロンジェルツ軍曹ありがとう。

え~、これにて前期課程修了式を閉式致します。
総員、軍曹に傾注!

これにて前期のカリキュラムをすべて修了する!総員、解散!!

やったわね。りぃ!ファルズン!これからもがんばりましょう!
うん。

叩き上げの君には案外いろいろ教えられたよ。
えっ、そう?
後期もよろしく。りぃ仮少尉。
よろしくね。

……少尉かぁ。やっぱり、りぃさんはすごいなぁ。本当のエースです!

あ~っ、ようやく解放されたわ!!
後期までのひとときの安息ね……。バルックシシでも食べに行こうか?

皆すごいですね。あんなに恐ろしい教官から逃げ出さないなんて。(でも僕はナジャ社長のほうが……です。)

ハァ~……。脱落者がいないとは想定外だネェ……。
あ、あれ?脱落者なしじゃだめなんです?ボクは嬉しい限りだと思いますけど……。

…………。
む…?
士官を育てたいなら、全員優秀な方が良いだろうに。
サラヒム・センチネル、お金を儲けるための傭兵会社じゃなくて、他に何か目的がある…?

アブクーバ。
は、はいっ!

前期で「稼いだ」入学金と実習料、ちゃんと数えときな。

あ~あこれで退学料が一口でも追加されたらもっと最高だったんだけどネェ……。

……あのりぃさん。
はいな。
今回もボクはずっとダメダメでした……
そんなことないよ。
さっきの訓練もりぃさんとヤスミールさんが励ましてくれたところまでは覚えてるんですけど……
やっぱり記憶から消えてしまったかー!
もったいない!!!

はぁ……やっぱりボクって……。
あ!いけない、いけない……

それじゃ、また!
うん。またね。

よっ、優等生。
え、私?
ねぇねぇあなたの噂が最近よく流れてんの知ってる?
知らないよー。

サラヒムんとこの凄腕傭兵りぃってね。
ええ?

わたしが広めたのぉ~。感謝してよね。
やっ、やめて!

ド田舎の町にまで広まっちゃったりしてね。
たとえばツァヤとか?
まさかぁ!
ツァヤはド田舎なのか。

それじゃ、「特別実習」がんばってね。
下手してこのコに変な噂立てられないようにね。
下手しなくても立てないでぇ。
じゃあね~。

実習は辛かったけど学校に来るのは楽しみだったわ。はるばる海を越えて来た甲斐があった。何故だかわかる?
わかんない。
あんな理不尽に怒鳴られるのに。

あなたたちのお陰よ。特に……。
特に?

後期もまたよろしくね?りぃ少尉!
うん。またね。
特に何なのか言わないで行っちゃった。
次で昇進試験も最後かぁ。
がんばろ。
「少尉」に昇格した!
だいじなもの:山猫少尉バッジを手にいれた!