私の足元にありますって言ってよ！！！

（ハァ～……僕の人事担当としての生活も、これで終わりかもしれないです。）

どうした！？

あ……りぃさん。……あの、申し訳ないんですけどお願いがあるんです……。
なんでしょう？

その……僕の代わりに武器屋に行ってきてほしいんです。今、社長からの急な仕事でどうしても手が離せなくて……。
武器屋に？

先日、僕が注文した「例のアレ」と言っていただければ、伝わると思いますので……。
うん、わかった。

本当にすみません……。

（ハァ～……。）

ため息が深すぎる。
どうしたんだろう。

はて…………アブクーバ？……例のアレ？

あら？伝わらない？

おお、そうか。アブクーバってのは昨日の……。ってことは、なるほど、アレの件だな？

名前伝えてなかったんかい。

しかし……困ったな。
何が…？

うん？なんの話かって？いいだろう、ことの経緯はこうだ。

昨日のことだった。うちに訪ねてきたんだ。そのアブクーバって人がな。どうやら、武器に浮いた錆を落とす薬品を探していたらしいのだが……

あいにく、うちは武器の販売専門。そういった手入れ用品は売り物として置いてないと言ったんだ。それで、もし武器を錆びさせちまったんなら、鍛冶ギルドにでも預けるのが一番だと、あいつに薦めたんだが……

そいつは「できない」と言うんだ。
どうして？

理由？さあな……俺も商売人の端くれだ。客の内情を深追いしたりはしない。

だが……あまりにも困ってる様子だったもんで、特別に取り寄せてやるって提案してやったんだ。だが、俺としたことが、肝心の武器の「材質」を聞くのを忘れてな。

「材質」によっちゃ用いる薬品が異なる場合だってあるし、間違うと、状態を悪化させちまうことだってある。だから、取り寄せようにも取り寄せられずにいるわけよ。
なるほど。

悪いが、あんたあいつにどんな材質の武器の手入れをしたいのか聞いてきてくれないか？本当は、直に俺が行った方が早ぇんだろうが、この店を空けるわけにもいかんのでね。
うん。わかった。

すまんが、頼んだよ。

（ハァ～……やっぱり辞めるしか……。）

アブクーバ。
はっ！

あ、りぃさん。（……社長かと思ってすごく焦りましたー。）

材質を教えてほしいんだって。
え？武器は何かですって？

……。

アブクーバの顔色が良くない。

いや、いよいよどうした？
そんな修理する武器を聞いただけで青ざめるなんて。

手入れしたい武器は何かってことですよね……？

そうだけど、それよりも。

悩み事があるの？
……。

やっぱり、りぃさんに隠し事はできませんね。

あの……もし、よろしければ奥までついてきてもらえますか？どうしても見ていただきたいものがあるんです。
奥？ナジャ社長いないの？

え？社長？だいじょうぶ。今は公務代理店の方との打ち合わせで、社外に出ておられますから。

　　
こちらです……。

……。

お待たせしました。これなんですけど……

そ、それは…！

わかりませんか？

分からないはずがない！

僕はとんでもないことをしでかしてしまいました……。

ナジャ社長、御愛用のトゲトゲの手入れは、僕の大事な任務だったのに……

よりによって、黒錆を浮かせてしまうなんて！！

ひぃえ！！

それはいつもと変わらぬ朝の日課のはずでした……。

実は、ここ最近お忙しい社長に代わり、僕がこのトゲトゲを磨く役を仰せつかってたんです。

いつもは社長が自分でやってたけど、最近はアブクーバの役目だったのね。

それで、いつものように社長のトゲトゲを、ピカピカにお手入れしようと、手に取ったのです。

……いつもと言っても、実は一昨日の朝は寝坊して、お手入れしてなかったんですけれど……。
えっ…。

あっ、今のは内緒ですからね？

それで、いざ作業場に運ぼうとしたときでした……

あっ！！

豪快なこけっぷり！！

落としてしまったんです……ふひー！

いやでも、いつもそれで殴ってんだから落としたくらいでどうにもならないのでは？

でも、トゲトゲは社長好みのとんでもなく頑丈な造りでしょう？落っことしたくらいではなんともないはず……

だよね？

でした……。

アブクーバの悲痛な叫び声SEが…！！

深いため息SEが！

でも、拾い上げたとき僕は恐ろしいことに気づいてしまったんです。トゲの根っこの部分にポツポツと……ああ……星のように黒錆が浮いてしまっていることを！

　　

ひょっとしたら、一昨日、手入れしなかったことが原因かもしれません……。

1日でそんなになるかしら？

いえ、理由なんてどうでもいいですね。僕がボコボコにされるのは仕方ないですけれど、そうしたって美しいトゲトゲはもう帰ってきませんから……

あうう……。想像しただけで、土下座しそうになりました……。

恐るべし社長。

僕は責任をとって、会社を辞めようと思います。ええ、もう、それしか僕には……。

りぃさん、今までお世話になりました。僕を止めないでくださいね……？
早まってはいけない。

りぃさん……ありがとうございますー。

でも、この錆はどうしようもありません……。諦めるしかないですよね？
そんなことないよ。きっと取る方法があるから、探そう。

ほ、本当ですか！僕はあなたのその言葉を待っていました！！

りぃ曹長！あなただけが頼りなんです！（勝手なのは百も承知ですー。）

アブクーバ！どこにいるんだいっ！？

闇王のBGM！！

！！
ひえっ。

は、はいぃっ！！（社長がお戻りになられました……）
うんむ…。

アブクーバ！呼ばれたらすぐっ！！
（し、しかも、御機嫌がよろしくないみたいです……。）

ったく、連中ときたら、次々と難題を増やしやがって！いったい、誰のおかげで御公務を遂行できてると思ってんだい！

ん？なんだい？あんたたち、雁首そろえて。何か、あたいの顔についてるのかい？

……それともあれかい？ま・さ・か……あたいの怒りを、頂点まで運んでくれるようなビッグな隠し事でもあるんじゃないだろうネェ？

滅相もございません……こともない…。

そもそも……いったいぜんたいココで何してんだい？りぃ。あたいが留守なのをいいことに、アブクーバと一緒にぶらぶら油売ってたんじゃないだろうネェ？

そもそも…曹長のアサルト全部クリアしたから来たんだった。
そうしたらアブクーバが連続ため息を。

んんん？

ダンッ！

なんとか言ったらどうなんだい！！

ぬおー！

えーっと…。

何言っても錆がバレるよなぁ。

というか、今持ってるけど錆に気づいてなさそうだから……いや、どんな言い訳しても結局バレそう。

…………。

さっきから黙って……あたいは……あたいは悲しいよ。

……あたいはね。あんたらのこと単なる社員じゃなくてずっと仲間だって思ってた……。そう、会社という同じ船に乗った苦楽を共にする仲間さ……。

けれど、そう思ってたのはあたいだけだったんだネェ。

ナ、ナジャ社長！あのっ、僕……僕……実は……

ちょっと待って、これは明らかにナジャ社長の誘導…！

……実は？

かかった！って顔してるぅ！

…………。

実はりぃさんを外まで送るところだったんですー。

うおお！？

さすがのアブクーバも正直には言えなかったー！！

チッ！

ひぃ！
舌打ちしたぁ！

さあ、りぃさん、ナジャ社長のため、「僕のため」ひいてはサラヒム・センチネルの栄光のため……

御公務も「そうじゃないお仕事」も一切合財ぜ～んぶひっくるめて、がんばりましょー！！

力入ってる部分の言葉がー。

……フン。ったくどいつもこいつも……。

　　

……僕はナジャ社長のトゲトゲのことならな～んでも知ってます……。

だって、毎日、毎日舐めるように精魂込めて磨いてますから……

舐める…！
あっ、ものの喩えですよ。

黒錆が浮いた柄頭は、トゲ以外は重～い黒鉄でできてるんです。それは殴ったものを粉砕するためで……怖いです。

ひぃ…。

さぁ、りぃさん。武器屋さんにトゲトゲの材質を伝えてください。